声の心理学~伝わる歌声

3AE00FFC-3B40-4B48-844F-3487371322B4superflyが、海外アーティストであるJETとコラボした2007年の楽曲i spy i spy。今聴いても素晴らしい。のびやかで大音量のイメージが強い中で、少し異色の曲だったのではないかと思います。

superflyといえば、あのきゃしゃな体からよくぞと感動するほどのダイナミックさで響かせる声が魅力だと思っていましたから。JETが作曲した音の中で、ウィスパーボイスのように吐息交じりで歌う歌唱法を取り入れていたあの曲は、一ファンとしても驚きでした。ちょうどその頃インタビューさせていただた時、越智志帆さんご自身も「自分の歌い方は、いかに自分の中で声が鳴り響き外のみんなに向かって共鳴するのかが大事だと思っていたけど、まるで新しい自分に出会ったみたいな感覚だった」と。しかもそのウィスパーボイスも、大好評だったんですよね。

歌唱法について民俗学の視点から見た場合、もともと日本は木造家屋が多く、また数十人というコミュニティを基盤とする民族だったため、音の共鳴率の低い「木」の中で、数十人と共有する声として、いかに大きな声、のびやかな声を出すかというところにこそ重きを置く傾向があった、とされているんだとか。民謡の歌声もそうですよね、歌声は「大きな声で、文末は伸ばす」。

演歌も伸ばす。民謡も伸ばす。J-POPも、伸ばす歌唱法が「うまい」とされるのは道理なのでしょう。

時はさらに遡り、2001年、2002年ごろ。韓国のK-POPについて、ZIP-FMが日本中のどこよりも早く人気に火をつけようと力を入れていたころ、韓国のKBSと二次元同時放送を幾度か行ったことがありました。私自身も、韓国にてその二次元放送に携わらせていただいただけでなく、KBSにもインタビューゲストという形で出演させていただいたのですが、そのときに私が申し上げたのは、こんなお話でした。「日本には母音、という言語上の特性がある。50音のどの音も、伸ばせば必ず「アイウエオ」の母音になる。つまり、日本語には子音で終わる単語が存在しないから、英語などと同様に子音で終わる単語が存在する韓国語のラップに、これほどかっこいいという印象を抱くんだと思う」と。KBSのインタビュアーの方もしきりに納得してらっしゃったのが印象に残っています。

ヒップホップ、ラップは日本らしい「伸ばす」歌唱法では十分な魅力を発揮できません。ちょうどsuperflyのJETとのコラボ楽曲リリースは、ロックであろうがジャンルが何であっても、日本の音楽シーンの中で語尾を伸ばす以外の歌唱法に特に目新しさを覚えた時期ですし、当時は海外の歌唱法との距離が縮まったボーダーレス化の時期だったのではないかと思います。

なんにでも、バリエーションは多い方が面白い。そう思いませんか?

 

さて回は歌唱法についての内容となりましたが、これは「喋り方」についても言えること。

「うまく喋りたい」とか、定番の「上手な喋り方のイメージ」に重きを置くならば、「大きな声でハキハキと」がセオリーでしょう。大事なプレゼンなどでは、確かに目指して損はない喋り方です。

しかし、日常生活では「伝える」という部分に重きを置くならば、「大きな声」より「囁くような声」が効果的な場合も。多くの人の前に立って伝える場合ではなく、一対一で伝えたいなら、何も大きな声である必要はないのです。いつものsuperflyもすばらしく、また、Jetとのコラボ楽曲がまた別の魅力でありながら素晴らしかったのと同じように。